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LLMのハルシネーションやセキュリティの問題を解決する為にRAG(Retrieval Augmented Generation)が注目されており、多くの企業で導入する動きがみられる中、LC(Long-Context LLMs)の方が精度が高いという論文が発表されました。
https://www.arxiv.org/abs/2407.16833
RAGというのは簡単に言うと、社内の情報などをデータベースに格納して、そのデータベースを参照して、AIに回答させる方法を言います。そのため、RAGにはシステムの開発が必要になります。
LCも簡単に説明すると、コマンドプロンプトの中にすべての情報を入れこんで実行させるというイメージを持っていただけると良いかと思います。
Gemini 1.5は、最大で100万トークンを処理する能力をもっており、ユースケースとしてRAGの代わりに使うケースも大いに考えられますし、今後RAとLCを使い分けるケースが増えてくるのかと予想されます。
本記事では、それぞれの強みと具体的なユースケース、実際の使用シナリオでどちらを選ぶべきかについて詳しく解説します。ハイブリッドアプローチのSELF-ROUTEの利点も含めて、あなたに最適な選択肢を見つけるヒントを提供します。
- RAGとLCの基本的な特徴と違い
- それぞれのユースケースと適した場面
- ハイブリッドアプローチSELF-ROUTEの利点
- 実際の比較結果と具体例
RAGとLCの基本的な違い
RAGは、外部情報を取得し、それをもとにLLMが生成応答を行うアプローチです。関連情報を絞り込むことで、長い文脈に対する情報処理コストを抑えつつ、適切な応答を生成できます。一方、LC(Long-Context LLMs)は、長い文脈を直接モデルに入力してそのまま処理・応答を行う方法です。これにより、一貫性のある深い文脈理解を実現します。
具体例:
- RAGではFAQシステムや法務ドキュメント検索で効果的に利用される場面があります。一方でLCは、長い会議の議事録作成や小説の内容理解などで特に有用です。
ユースケース
RAG(Retrieval Augmented Generation)のユースケースとメリット
- ユースケース: FAQシステム、ニュースの要約、カスタマーサポートなど、特定の情報を素早く引き出して応答する場面で活用されます。
- メリット: 必要な情報を取り出して素早く応答できるので、コストが抑えられ、効率的に答えを出すことが可能です。特に広範囲な情報から素早く検索して応答するのが得意です。
LC(Long-Context LLMs)のユースケースとメリット
- ユースケース: 小説のストーリー理解、会議の議事録作成、長い学術論文の分析など、長い文脈や複雑な内容を深く理解する場面で役立ちます。
- メリット: 長い文脈を一貫して理解し、正確で深い応答を提供できます。複雑な内容を一度に把握できるので、全体の流れを大切にしたい場合に強力です。
3. 実際の比較結果
研究によると、LCはパフォーマンス面でRAGを上回ることが多いですが、RAGはコスト効率の面で優れています。また、SELF-ROUTEというハイブリッドアプローチを利用することで、RAGとLCの両方の強みを活かし、コストを抑えつつ高いパフォーマンスを維持できます。

具体的な数値比較
- LCは一般的にRAGを7.6%上回る性能を示しましたが、特定の長文データセットではRAGが優位な場合もあります。
- SELF-ROUTEでは65%のコスト削減が可能でありながら、LCに近いパフォーマンスを維持できるケースがあります。
SELF-ROUTEの詳細
SELF-ROUTEは、RAG(Retrieval Augmented Generation)とLC(Long-Context LLMs)を組み合わせて、効率的かつ効果的にクエリを処理するためのハイブリッドアプローチです。これにより、長文文脈の処理において、コストを抑えつつ高いパフォーマンスを実現することが可能です。以下に、SELF-ROUTEの仕組みと利点について詳しく説明します。
1. SELF-ROUTEの動作原理
SELF-ROUTEの基本的な考え方は、クエリごとにRAGまたはLCを選択的に適用することにあります。モデル自身が「自己反射」することで、どちらの手法が適しているかを判断し、以下のステップで処理を行います。
- RAG-and-Routeステップ: 最初にRAGを用いてクエリを処理し、関連する情報を取得した上で回答します。この段階で、モデルがクエリに対して十分な応答が可能かどうかを判断します。もし「回答可能」と判断した場合、RAGによる応答をそのまま採用します。
- LCステップ: RAGが「回答不能」と判断したクエリについては、LCモデルにクエリを送り、長文文脈全体を用いてより詳しい回答を生成します。これにより、長い文脈を効果的に処理しつつ、必要に応じてより深いコンテキスト理解を活用できます。
2. SELF-ROUTEの利点
- コスト削減: RAGを利用することで、通常よりも少ないトークンで応答を生成することができ、LCをフルに使用する場合と比べてコストを大幅に削減できます。
- 高いパフォーマンスを維持: SELF-ROUTEは、RAGとLCを使い分けることで、コストを抑えながらLCに近いパフォーマンスを実現します。実際の評価では、SELF-ROUTEがLCと比較してわずかに性能が劣る場合もありますが、多くの場合で十分な応答品質を維持できます。
- 柔軟性: クエリの特性に応じて、最適な処理を選択するため、異なる種類のタスクに対しても効果的に対応可能です。
3. SELF-ROUTEの具体例
例えば、法律関連の質問において、RAGは必要な条文や判例を素早く引き出し、クエリに対する簡潔な応答を提供します。しかし、より複雑な多段階の推論が必要な場合や、長い文脈の一貫性を保つ必要がある場合には、SELF-ROUTEが自動的にLCに切り替えて深いコンテキストをもとにした回答を生成します。これにより、コストを削減しつつも最適な応答が得られるのです。
4. 定量的な効果
研究によると、SELF-ROUTEを使用することで、例えばGemini-1.5-Proでは最大65%のコスト削減が可能でありながら、LCとほぼ同等のパフォーマンスを維持できます。特に多くのクエリがRAGで処理可能な場合、LCの利用を最小限に抑えることができ、処理効率が向上します。
SELF-ROUTEのユースケースとメリット
1. カスタマーサポートシステム
- 事例: ある大手通信会社が、SELF-ROUTEを用いたカスタマーサポートシステムを導入しました。日常的な顧客からの問い合わせ(請求書の確認や簡単な契約変更など)はRAGを用いて迅速に処理し、複雑な技術的な問題や顧客の長期契約に関する詳細なヒストリーを参照する必要がある場合はLCが対応するようにしています。
- メリット: 通常の問い合わせを効率的に処理しつつ、特別なサポートが必要な場合には詳細な応答を提供できるため、顧客満足度が向上しました。また、コスト削減にもつながっています。
2. 法律相談サービス
- 事例: 法律事務所がSELF-ROUTEを用いて、オンラインでの法律相談サービスを構築しました。基本的な法律の質問や既存の判例に関する簡単な情報はRAGで素早く回答し、複雑なケーススタディや複数の法律を関連付けて検討する必要がある相談にはLCを使用することで、深く掘り下げた応答を行っています。
- メリット: 基本的な質問にかかるコストを抑えながら、重要なケースには時間とリソースをかけて対応できるようになり、顧客への信頼性が高まりました。
3. 学術研究のサポートシステム
- 事例: 研究機関がSELF-ROUTEを活用し、研究者が参考文献を効率的に検索し、簡単な概要を得るときにはRAGを使用し、複数の論文や長い研究結果を一貫して把握したい場合にはLCを活用しています。研究の進捗に応じて柔軟に情報を取得できる環境を提供しています。
- メリット: 研究者は必要に応じて適切な情報を効率的に取得できるため、作業効率が向上し、研究成果の質が高まる効果がありました。
4. マーケティング分析
- 事例: マーケティング会社がSELF-ROUTEを用いて、顧客データの分析に活用しています。過去のキャンペーン結果や簡単なデータ集計はRAGで処理し、複雑な市場分析や長期間にわたるトレンドの把握にはLCを使うことで、詳細な戦略立案が可能になっています。
- メリット: 分析コストを抑えつつ、必要な深いインサイトを得られるため、より効果的なマーケティング施策を実施できるようになりました。
SELF-ROUTEは、このように多様なシナリオで導入され、効率性と効果を両立することに成功しています。用途に応じてRAGとLCを適切に切り替えることで、全体のパフォーマンスを向上させつつコストを抑えられるのが大きなメリットです。
SELF-ROUTEの実装例
SELF-ROUTEの実装には、RAGとLCを組み合わせ、クエリの性質に応じて適切なアプローチを選択して処理するシステムを構築します。以下は、SELF-ROUTEの基本的な実装手順を概説します。
1. RAGとLCの準備
まず、SELF-ROUTEを構築するために必要なRAG(Retrieval Augmented Generation)とLC(Long-Context LLMs)を用意します。各モジュールを構成し、それぞれで独立してクエリを処理できる状態にします。
- RAGモジュール: クエリに基づいて関連情報を外部ソースから取得し、それを基に応答を生成する機能を持つ。
- LCモジュール: クエリを長文コンテキストとしてそのままモデルに渡し、一貫した応答を生成する機能を持つ。
2. クエリの分類と前処理
SELF-ROUTEの鍵は、クエリを適切に分類し、RAGまたはLCに振り分けることです。これには以下のステップを取ります。
- クエリ特性の分析: クエリの長さ、複雑さ、求められるコンテキストの深さを基に、どのアプローチが最適かを分析します。
- 振り分けルールの設定: シンプルなクエリや短文はRAGで処理し、長文や複雑な文脈が必要な場合はLCを利用するなど、振り分けの基準を明確にします。振り分けは手動ルールベース、または機械学習による分類器を用いる方法があります。
まとめ
RAGとLCの選択は、目的や利用シーンに依存します。短期的な応答とコスト効率を重視する場合にはRAGが効果的であり、長文のコンテキストを保持した一貫性のある応答を求める場合にはLCが適しています。
また、SELF-ROUTEのようなハイブリッドアプローチを活用することで、より効果的な応答とコスト削減の両立を図ることが可能ですので、今後、SELF-ROUTEを使うケースも増えてきそうです。
注釈
- RAG(Retrieval Augmented Generation): クエリに基づいて関連情報を外部ソースから取得し、その情報を元に応答を生成するアプローチ。
- LC(Long-Context LLMs): 長い文脈を直接処理し、生成応答を行うLLMのアプローチ。
- SELF-ROUTE: RAGとLCを組み合わせて効率的にクエリを処理するハイブリッドアプローチ。